定年後に「タクシードライバー」はアリ?

定年を迎えたあと、「まだ働けるうちは社会に関わりたい」「収入を少しでも得て生活の安心を増やしたい」と考える方は少なくありません。一方で、再就職の場を探す際には「年齢的に採用されるだろうか」「体力的に続けられるだろうか」といった不安を感じることもあるでしょう。

そこでおすすめしたいのが、タクシードライバーという働き方です。タクシー業界は年齢を問わず挑戦できる環境が整っており、未経験からでも研修や資格取得のサポートを受けながらスタートできます。勤務時間の融通も利くため、体力や生活リズムに合わせて働けるのも魅力のひとつです。

この記事では、定年後の再就職にタクシードライバーが選ばれる理由や、実際の働き方、注意点などを解説します。

定年後の働き方としてタクシードライバーが選ばれる理由

タクシードライバーは年齢を重ねても続けやすい仕事です。ここでは、60代からでも無理なく始めやすい理由を紹介します。

同世代の仲間が多く、なじみやすい環境

タクシー業界では、全国的に50〜60代のドライバーが中心となって働いています。全国平均年齢は約60歳と高く、再就職しても年齢差を感じにくい環境が整っています。

参照元:全国ハイヤー・タクシー連合会「令和6年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況」[PDF](https://taxi-japan.or.jp/zius/wp-content/uploads/2025/07/tinginR6.pdf)

定年後に新しい職場へ入ると、年齢的なギャップや人間関係に不安を抱く方も多いですが、タクシー会社では同世代の仲間が多く、自然に馴染みやすいのが特徴です。

また、ベテランドライバーが新人をサポートする体制を整えている会社も多く、未経験でも安心して仕事を始められます。人生経験の豊かさが接客にも活かせるため、「長年の社会人経験が強みになる仕事」として選ばれているのです。

未経験からでも資格取得をサポートしてもらえる

タクシードライバーとして働くためには「普通自動車第二種運転免許(通称:二種免許)」が必要ですが、多くのタクシー会社では入社後に会社負担で取得できる制度を用意しています。そのため、普通免許しか持っていなくても問題なくスタートできる環境が整っています。

また、運転技術や接客マナー、地理などを学べる研修プログラムも充実しており、業界未経験でもしっかり基礎を身につけてから現場に出られるのが安心です。「これまでドライバー職に就いたことがない」「長いブランクがある」という方にも開かれた仕事といえるでしょう。

勤務時間を調整しやすく、自分のペースで働ける

定年後は、健康や家族との時間を大切にしながら働きたいという方が多くなります。タクシー業界では「昼勤」「夜勤」「隔日勤務」など複数のシフトパターンがあり、自分の体調や生活リズムに合わせて働ける柔軟さがあります。

また、1日の中で休憩時間を自分の判断で取れる点も魅力です。

「疲れを感じたら少し休む」「用事のある日は早めに上がる」など、自分のペースを大切にできるため、無理のない働き方ができます。

近年では、時短勤務や週数日の勤務を導入する会社も増えており、「フルタイムでなくても働ける職場」としても注目されています。

年金を受け取りながら働ける

もう一つの大きな魅力は、年金を受給しながら働ける点です。収入が一定額を超えない範囲であれば、年金を減らさずに就業できるため、家計の安定やゆとりある生活につながります。

「生活費を少し補いたい」「趣味や旅行の資金をつくりたい」という目的で働く方も多く、働き方に幅があるのが特徴です。

また、歩合給制度を採用する会社が多いため、体力や時間に合わせて収入をコントロールできるのも魅力です。「もう少し稼ぎたい」「ゆっくり働きたい」といった個々の希望に対応しやすい職業といえます。

タクシードライバーの働き方と給与の仕組み

タクシードライバーの仕事は、見た目のシンプルさに反して、勤務形態や給与体系などに独特の仕組みがあります。定年後に働くうえで「どのようなスケジュールで働けるのか」「収入はどの程度見込めるのか」を具体的に理解しておくことが大切です。

働き方・勤務形態の種類

タクシードライバーの勤務形態には、大きく分けて昼勤・夜勤・隔日勤務の3つがあります。

昼勤は朝から夕方までの勤務で、体調管理がしやすく生活リズムも整えやすいため、定年後の方にもっとも人気のある働き方です。夜勤は夕方から深夜・早朝にかけて働くスタイルで、深夜料金による売り上げが高くなりやすく、効率よく収入を得たい方に向いています。

そしてタクシー業界で最も一般的なのが確実勤務です。隔日勤務は「1回の勤務で2日分の仕事をまとめて行い、翌日は休む」という働き方で、1日の労働時間は長めですが、出勤日数を減らして週の自由時間を確保できます。

近年は、こうした一般的な形態に加えて、時短勤務や週3日勤務などの柔軟なスタイルを導入する会社も増えています。体力や家庭の事情に合わせて働き方を調整できる点は、シニア世代にとって大きな安心材料です。

給与体系の仕組み

タクシードライバーの給与は、一般的な職種とは少し異なり、「固定給+歩合給」または「完全歩合制」を採用する企業が多いのが特徴です。

「固定給+歩合給」の場合、基本給に加えて営業成績(売り上げ)に応じた報酬が支給されます。一定の基本給があるため、安定した収入を得ながら、努力次第で上乗せを狙えるのが魅力です。

一方、「完全歩合制」は、売り上げの一定割合がそのまま給与として支払われる仕組みで、自分の頑張りが直接収入に反映されます。勤務日数や時間を柔軟に選べるため、定年後でも自分のペースで働きたい方には適しています。

また、タクシー業界特有の勤務形態として「隔日勤務の割増制度」や「アプリ配車によるインセンティブ」を導入する会社もあります。近年は、配車アプリの普及で安定した集客が見込めるようになり、売り上げを伸ばしやすい環境が整いつつあります。

収入・年収の目安

全国ハイヤー・タクシー連合会の統計によると、タクシー運転手の全国平均年収は414万8,500円です。地域差が大きく、都市部では利用者数が多いため、年収500万円以上を目指せるケースもあります。反対に、地方ではやや低めの水準となる傾向がありますが、生活コストとのバランスを考えると、安定した収入を確保しやすい職業といえます。

参照元:全国ハイヤー・タクシー連合会「令和6年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況」[PDF](https://taxi-japan.or.jp/zius/wp-content/uploads/2025/07/tinginR6.pdf)

また、年金との併用で生活設計を立てる方も多く、「年金+タクシー収入」でゆとりを持った暮らしを実現している方も少なくありません。無理をせずに働けるうえ、社会とのつながりを保てる点が、金銭面以外の大きな魅力でもあります。

タクシードライバーとして何歳まで働ける?採用の実情

結論から言えば、タクシー業界は年齢に寛容で、70代でも活躍できるチャンスがある職場です。ここでは、採用年齢の実情や重視されるポイントを詳しく見ていきます。

大手タクシー会社の傾向

多くの大手タクシー会社では、定年を60歳と定めています。しかし実際には、定年後に嘱託社員・契約社員・再雇用制度として継続勤務できるケースがほとんどです。そのため、60歳を過ぎても引き続き同じ会社で働くドライバーは多く、65歳前後まで現役で活躍する人も珍しくありません。

さらに、近年は人手不足の影響もあり、健康状態や運転技術に問題がなければ70歳近くまで働ける環境が整ってきています。とくに大手企業では、定期的な健康診断や運転適性チェックを行い、安全に働ける体制を整えているため、年齢を理由に早期退職を迫られることはほとんどありません。

中小・地域密着型タクシー会社の傾向

一方、中小規模のタクシー会社では、年齢制限を設けていないところも多く見られます。地域密着でお客様との関係を大切にしている会社が多く、経験や人柄を重視して採用を行うため、70代でも現役ドライバーとして働く方が珍しくありません。

とくに地方では、若い人材の確保が難しいこともあり、65歳以上のベテランドライバーが戦力として頼りにされているのが現状です。「まだ体が元気で、地域の役に立ちたい」という想いを持つ方にとって、こうした環境は非常に働きやすいといえます。

採用時に重視されるポイント

採用年齢よりも大切なのが、健康状態と運転スキルへの信頼です。多くの会社では採用時に健康診断を実施し、心身の状態や視力、反応速度をチェックしています。特別な資格やキャリアは必要ありませんが、「安全運転ができる体調・判断力を維持しているか」が何よりの評価ポイントになります。

また、普通自動車免許を取得してから3年以上経過していることが「第二種免許」の受験条件です。そのため、普通免許を持っていて、健康に問題がなければ、ほとんどの方が応募対象になります。

定年後にタクシードライバーを目指す際の注意点

定年後の新しい仕事として人気の高いタクシードライバーですが、年齢を重ねてから働くうえでは、いくつか注意すべき点もあります。体調管理や安全運転への意識をしっかり持つことで、無理なく長く続けることができます。ここでは、定年後だからこそ大切にしたいポイントを見ていきましょう。

健康管理は最優先

タクシードライバーの仕事は、長時間運転席に座ったままの姿勢を保つことが多いため、腰や肩への負担がかかりやすい職種です。とくに年齢を重ねると、腰痛や足のむくみ、血行不良などが起こりやすくなるため、日常的なストレッチや軽い運動を取り入れて、体のコンディションを整えることが大切です。

また、疲労の蓄積は判断力や反応速度の低下にもつながります。睡眠時間をしっかり確保し、体調が優れない日は無理をせずシフトを調整するなど、「無理をしない働き方」を意識しましょう。

多くのタクシー会社では定期的な健康診断を実施しており、相談窓口や医療機関との連携を行うところもあります。そうした制度を積極的に活用し、常に健康を保つ姿勢を持つことが大切です。

視力の低下に注意する

タクシードライバーにとって、視力は最も重要な資質のひとつです。年齢とともに視力や動体視力が低下し、夜間や雨天時に視界が悪くなることがあります。特に夜勤を希望する場合は、定期的に眼科で検査を受け、必要に応じて眼鏡やコンタクトレンズを調整するようにしましょう。

夜間の視界に不安を感じる場合は、昼勤のみの勤務を選ぶのも一つの方法です。タクシー会社によっては「日中限定勤務」などの柔軟なシフト制度を設けているところもあり、視力や体調に合わせて働き方を変えられる環境が整いつつあります。

安全運転への意識を常に保つ

年齢を重ねると反応速度や瞬時の判断力が低下しやすくなります。そのため、若い頃の感覚のまま運転してしまうと、思わぬ事故につながる可能性があります。交差点での右左折、車線変更、歩行者への配慮など、一つひとつの動作を慎重に行う意識を持つことが大切です。

また、多くのタクシー会社では高齢ドライバー向けに「安全運転講習」や「運転適性診断」などの教育プログラムを実施しています。こうした研修を定期的に受けることで、運転技術や安全意識を維持し、安心して働き続けることができます。

体力と生活リズムに合わせた働き方を選ぶ

定年後に仕事を続ける場合、「体調と相談しながら働くこと」が何より重要です。夜勤や長時間の隔日勤務は収入面で有利な一方で、生活リズムが崩れやすく、疲労がたまりやすい傾向があります。

体力や健康状態に不安がある場合は、昼勤や時短勤務を選ぶなど、無理のないスケジュールを組みましょう。週に数日だけ働くスタイルでも十分に成立する仕事なので、自分の体調に合わせて調整することができます。

安心して働ける会社を選ぶ

健康面・安全面をサポートしてくれる会社を選ぶことも、定年後の再就職では大切です。研修制度が整っているか、定期的な健康診断が実施されているか、勤務時間の融通が利くか――。そうした条件を事前に確認し、自分に合った会社を選ぶことで、安心して長く働くことができます。

まとめ

定年後の再就職を考えるとき、「体力的に無理のない仕事」「年齢を重ねても受け入れてもらえる職場」「これまでの経験を活かせる仕事」を求める方は多いでしょう。その点で、タクシードライバーはまさにセカンドキャリアとして現実的で魅力的な選択肢といえます。

タクシー業界は50〜60代を中心に、70代でも現役で活躍している方が少なくありません。未経験からでも挑戦できる研修制度や資格取得支援が整い、自分のペースで働ける柔軟なシフト体制も用意されています。また、年金を受け取りながら働くこともできるため、生活にゆとりをもたせながら社会とのつながりを保てる仕事です。

もちろん、健康管理や安全運転への意識、勤務形態の選び方など、定年後ならではの注意点もあります。しかし、それらをきちんと意識すれば、「無理なく・安心して・長く続けられる仕事」として充実した日々を送ることができるでしょう。

   
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